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日本を代表するサクソフォン五人衆が競演、協奏曲で芸術性が新たな進化/ヤマハカスタムサクソフォン「YAS-875EX」発売20周年記念ガラコンサート
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2023.4.21
日本のサクソフォン界を代表する五人衆が集結し、競演を繰り広げた。2023年3月25日、ヤマハホールでの「ヤマハカスタムサクソフォン『YAS-875EX 』発売20周年記念ガラコンサート」。YAS-875EXや前身モデルの機能を駆使し、さまざまな編成で演奏。上野耕平がラーションの『サクソフォン協奏曲』でトリを飾り、この楽器の芸術性は新たな進化の可能性を示した。
2002年発売の「YAS-875EX」は須川展也やジャン=イブ・フルモーら世界で活躍するサクソフォン奏者の意見に基づき前身の「YAS-875」をブラシュアップした。20周年記念のステージに上がったのは齊藤健太、池上政人、田中靖人、林田和之、上野耕平の5人。師弟共演あり、五重奏ありの充実ぶりだ。
三部構成の第一部のテーマは「お祝い」。1曲目『チェイサー』は星出尚志作曲のフュージョン風の曲。羽石道代の疾走感あふれるピアノに乗って、齊藤健太と池上政人が掛け合いやユニゾンで技巧を凝らした演奏を披露した。
齊藤は2019年の「第7回アドルフ・サックス国際コンクール」第1位。彼が師事したのは洗足学園音楽大学教授の池上。今回が初の師弟共演だ。「注意すると彼はすごい顔で悔しがった。それでもう大丈夫と確信した」と池上は指導時を振り返り、最近は「音に芯が出てきた」と評価する。モンティ作曲(栃尾克樹編曲)『チャルダッシュ』では超絶技巧を感じさせない明快な響きを創り出していた。
齊藤は羽石のピアノ伴奏でソロも2曲披露した。ピエルネ作曲(ミュール編曲)『カンツォネッタ』は牧歌的でユーモラス。中間部では感傷的な陰影も付けるなど繊細に表現した。続くスコット作曲『MHP』ではアドリブ風の速いフレーズを鳴らし、高い技術を示した。
第二部のテーマは「道のり」。林田和之が銀色の楽器を持って登場した。前身の「YTS-875S 」という銀メッキ仕上げのテナーサクソフォンだ。スパーク作曲『パントマイム』では、YTS-875Sが人声のような柔和な音を出す。速い局面では軽やかな中低音で魅了した。ピアノは引き続き羽石。サクソフォンを引き立てすぎず、積極性も見せながら絶妙なバランスを取るアンサンブルピアニストだ。
続いて田中靖人が登場し、YAS-875EXで『モリコーネ・パラダイス』(真島俊夫編曲)を羽石のピアノと共演。深みのある音色でモリコーネの映画音楽を情感豊かに奏でた。
第二部の白眉は林田、田中、羽石によるプーランク作曲『三重奏曲~ピアノ、オーボエとバスーンのための~』。オーボエは林田のソプラノサクソフォン(YSS-875S)、バスーンは田中のバリトンサクソフォン(YBS-82 )に置き換えている。林田のソプラノは音色に艶がある。第1楽章ではプーランク独特の軽妙洒脱なパッセージが炸裂。第2楽章はホルンを思わせる広大なアンダンテ。第3楽章では3人がエッジを効かせたアンサンブルを展開した。
第三部は上野耕平が弦楽奏者たちと繰り広げる「名作コレクション」。モーツァルトの『アダージョ ハ長調 KV.580a』ではYAS-875EXがホルンのように穏やかに鳴り、「こんなこともできる」(上野)という実例を示した。
最後のラーション『サクソフォン協奏曲』は完成度が高い。若手中心の弦楽合奏は第1楽章冒頭から繊細で精緻をきわめる。第1バイオリンは高橋愛輝と下宮万弦、第2バイオリンは大田春奈と中井楓梨、ビオラは金田拓真、チェロは松谷壮一郎、コントラバスは桑原孝太朗。半音階的な弦楽合奏は明暗混交の特異な浮遊感を生み出し、ショスタコーヴィチを想起させる。上野のサクソフォンは哀愁と諧謔の混じった速いフレーズを奏でる。超絶技巧のカデンツァを経てすぐに第1楽章が幕切れになるのも衝撃だ。
第2楽章はワーグナーを思わせる大きなスケール。第3楽章は弦楽が薄明を漂わせるなか、上野の強烈なカデンツァの直後に全曲を終える。サクソフォンが開いた名作を実感させた。
アンコールは5人全員による福井健太編曲『星に願いを』。各人の個性を引き出し、厚みのある五重奏で締めくくった。
ベルギー南部ディナン生まれのアドルフ・サックスが1840年代に発明したサクソフォンは歴史が新しい。現代世界とともに歩んできた楽器であり、今も進化している。本公演はサクソフォンが新たな音楽を担っていく可能性を印象付けた。
上質で威厳あふれる豊かなサウンド。ストレスを感じさせないスムーズで優れたキイワークと低音の発音性。奏者の思いを表現できるフラッグシップモデル。