Web音遊人(みゅーじん)

バーニー・マースデン

追悼:バーニー・マースデン/ホワイトスネイクとブルースに生きたギタリスト

2023年8月23日、バーニー・マースデンが亡くなった。享年72。死因は細菌性髄膜炎といわれる。

多くの音楽ファンがバーニーのことを、ホワイトスネイクのギタリストとして記憶しているだろう。シンガーのデヴィッド・カヴァーデイルと共作した『フール・フォー・ユア・ラヴィング』(1980)はバンドの初期の代表曲だし、『ヒア・アイ・ゴー・アゲイン』(1982)は1987年に別メンバーによって再レコーディングされ、全米チャート1位に輝いている。

バーニーのキャリアはホワイトスネイク以前もUFO、コージー・パウエルズ・ハマー、ベーブ・ルース、ペイス・アシュトン・ロードなどハード・ロック寄りのものが多く、ホワイトスネイク脱退後もSOS、アラスカを経てMGM、ムーディ・マースデン・バンド、カンパニー・オブ・スネイクス、M3など、ホワイトスネイク人脈のミュージシャンと往年のクラシックスを演奏して人気を博してきた。

ハード・ロックの分野で名声を得たバーニーだったが、そのルーツはブルースにあった。

ブリティッシュ・ブルースへの傾倒

ザ・ビートルズのジョージ・ハリスンに憧れてギタリストを志したバーニーだったが、1966年、ジョン・メイオールの『ブルースブレイカーズ・ウィズ・エリック・クラプトン』でのエリック・クラプトンのプレイに衝撃を受ける。このアルバムはヒット・チャートでトップ10入り、イギリス全土にブルース・ブームを巻き起こしたが、彼もこのアルバムに魅了された1人だった。

そうして彼がさらにブルースに傾倒するきっかけとなったのがピーター・グリーンだった。エリックの後任としてブルースブレイカーズに加入したピーターは後にフリートウッド・マックを結成するが、バーニーにも多大な影響を与えている。筆者(山﨑)は2002年に彼とインタビューしたことがあるが、「もしピーターがいなかったら、君と話していないだろうね」と語るほどのファンだった。

そんなピーターとブリティッシュ・ブルースに捧げたトリビュート・アルバムが『Green and Blues』(1995)だ。ホワイトスネイク時代にもボビー“ブルー”ブランドの『エイント・ノー・ラヴ・イン・ザ・ハート・オブ・ザ・シティ』やリトル・ウィリー・ジョンの『ニード・ユア・ラヴ・ソー・バッド』(フリートウッド・マックのヴァージョンがヒット)をカヴァーしたり、ザ・ムーディー・マースデン・バンドの『ネヴァー・ターン・ユア・バック・オン・ザ・ブルース』(1992)でブルースに接近するなどしてきたバーニーだが、本作ではブルースブレイカーズやフリートウッド・マックのカヴァーを収録、オリジナル曲も1960年代英国ブルースのスタイルを踏襲するなど、ありったけの敬意と愛情を込めたアルバムに仕上げている。

なお彼がこの作品を完成させた1995年、ピーターは音楽シーンから引退していたが、突如電話をしてきたという。「ピーター・グリーンです」と名乗られて、彼は「ショックを受けた」と語っていた。

それからバーニーとピーターは音楽を超えた友情を育むことになった。2020年2月、ロンドンで豪華オールスター・キャストのトリビュート・コンサートが行われたとき、ピーターも出演を請われたが、彼は「興味がない」と不参加。バーニーを自宅に招いてお茶をしていたという。

アメリカ黒人ブルースへの敬愛

もちろんバーニーは英国ブルースばかりでなく、本場アメリカのブルースからも影響を受けてきた。ブルースブレイカーズ経由でフレディ・キングを知った彼は聴き耽り、何度もライヴに足を運んでいる。「初めて会ったとき、彼は車を直していたんだ」とバーニーは話していた。彼はまたマディ・ウォーターズやハウリン・ウルフのライヴを見たことがあり、自伝『Where’s My Guitar?:An Inside Story of British Rock and Roll』のオーディオブック版(朗読はバーニー自身によるもの)には1978年、彼がB.B.キングにインタビューしたときの音源がボーナス収録されてきた。

彼のブルースへの敬愛の集大成といえるのが『Kings』『Chess』(共に2021)『Trios』(2022)のアルバム3部作だった。アルバート/B.B./フレディの“3大キング” の曲をプレイする『Kings』、ブルースの名門レーベル“チェス・レコーズ”の名曲を集めた『Chess』、テイストやロビン・トロワーなどトリオ編成のブルース・ロックを取り上げた『Trios』は、彼のキャリアに幕を引くのに相応しい充実した内容だった。

さらにバーニーは「マディ・ウォーターズの1940年代の78回転レコードを何枚か持っているよ。チャック・ベリーの初期シングルもね」と語る年季の入ったコレクターだったし、「最近入手したのはシドニー・メイデンというハーモニカ奏者、それからダグ・クワトルバウムのレコードなんだ」とマニアックな趣味をしていた。

1990年代後半から徐々にロック系よりもブルース系のフェスティバルに足場を移していき、またジョー・ボナマッサやジョアン・ショウ・テイラーら若手ブルース・アーティストと交流を持つなど、晩年の彼の活動はブルース色が濃いものだった。そんな一方で2023年6月に自らのギターのコレクションを手放すと発表したのは、自分に残された時間が少ないことを察知していたのだろうか(すぐに撤回、無期延期となった)。

ブルースとロックに生きたギタリスト、バーニーのプレイは、これからも聴き継がれるだろう。彼はまた温かみとユーモアのある好人物で、周囲の多くの人々から愛されていた。その音楽と人生に献杯したい。

バーニー・マースデン公式サイト

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

facebook

twitter

特集

廣津留すみれ

今月の音遊人

今月の音遊人:廣津留すみれさん 「私にとって音楽は、昔も今もずっと“楽しいもの”」

7524views

音楽ライターの眼

連載43[ジャズ事始め]『ランドゥーガ〜セレクト・ライブ・アンダー・ザ・スカイ’90』解説その3

1944views

Disklavier™ ENSPIRE(ディスクラビア エンスパイア)- Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

限りなく高い精度で鍵盤とハンマーの動きを計測するヤマハ独自の自動演奏ピアノの技術

28977views

エレキギター

楽器のあれこれQ&A

エレキギターのサウンドメイクについて教えて!

2768views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】注目の若手ピアニスト小林愛実がチェロのレッスンに挑戦!

11272views

松石陽介さん

オトノ仕事人

「音楽の輪・人の和」を大切にして、子どもたちを健やかに育てる/地域バンドをまとめる仕事

1397views

メニコン シアターAoi

ホール自慢を聞きましょう

五感で“みる”ことの素晴らしさを多くの方と共感したい/メニコン シアターAoi

4647views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

7886views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

9616views

われら音遊人

われら音遊人:アンサンブルを大切に奏でる皆が歌って踊れるハードロック!

6043views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

クラス分けもまた楽しみ、レッスン通いスタート

5485views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

28210views

今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

9937views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

13520views

音楽ライターの眼

自分好みの“AIコルトレーン”はジャズの発展に寄与するのか?

3068views

仁宮裕さん

オトノ仕事人

アーティストの音楽観を映像で表現するミュージックビデオを作る/映像作家の仕事

15422views

5 Gravities

われら音遊人

われら音遊人:5つの個性が引き付け合い、多様な音楽性とグルーヴを生み出す

2839views

楽器探訪 Anothertake

人気トランペッターのエリック・ミヤシロがヤマハとタッグを組んだ、トランペットのシグネチャーモデル「YTR-8330EM」

7455views

水戸市民会館

ホール自慢を聞きましょう

茨城県最大の2,000席を有するホールを備えた、人と文化の交流拠点が誕生/水戸市民会館 グロービスホール(大ホール)

11495views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

もしもあのとき、バイオリンを習っていたら

6438views

金管楽器のパーツごとのお手入れ方法 - Web音遊人

楽器のあれこれQ&A

金管楽器のパーツごとのお手入れ方法

17796views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

10335views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

35002views