今月の音遊人
今月の音遊人:宮本笑里さん「あの一音目を聴いただけで、救われた気持ちになりました」
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東京藝術大学在学中に第14回「ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール」で最年少入賞を果たし、現在、ドイツのハノーファー音楽大学に留学中のピアニスト・阪田知樹。若き才能あふれる彼に、ピアノを始めた頃のエピソードやドイツでの暮らしなどについてきいた。
「ピアノを始めたのは5歳の時です。そのころ他の習い事もしていましたが、ピアノ以外はすぐに辞めてしまいました。やっぱり純粋にピアノが好きだったんですね」と阪田。小学校一年の時、夜中に突然目を覚まし、五線譜をくれと言って、いきなり楽譜を書いたのだとか。「僕は覚えていないのですが、夢の中で作曲していたらしいんです」。そんな音楽少年が、プロの演奏家になろうと決心したきっかけとは?「小学校高学年になったころ、有名なピアニストの演奏を家族で見に行きました。ホールで演奏をし、拍手をもらっているピアニストを見て『これって職業なの?』と親にききました。すると『そうだよ』と。人前でピアノを演奏して拍手をもらえる仕事があるなら、僕はこれがやりたいと、そのとき思ったのです」
阪田は現在、世界でトップクラスの音楽大学として有名なドイツのハノーファー音楽大学でピアノを学ぶ毎日だ。「ハノーファーは静かな場所で、エンターテインメントもほとんどありません。人によっては淋しいと感じるかもしれませんが、僕はピアノの勉強に打ち込めるので気に入っています。理想としては今の力量を維持するために毎日6~8時間ぐらいは練習したいし、技術を向上させるなら12時間ぐらい弾きたいと思っています。ですから体が資本。アスリートと同じですね」。体が資本なら、食べ物は大切だ。日本食は恋しくないですか?と尋ねると、「帰国するとラーメンやB級グルメが食べたくなりますね」と、等身大の日本の若者らしい答えが返ってきた。
そんな阪田は2016年3月4日(金)にヤマハホールでリサイタルを行う。モーツァルト、シューマン、武満徹、リスト、J.シュトラウス2世と独創的なプログラムだ。「最近は作曲にも力を入れているのですが、作曲家の立場で曲を分析すると『この曲で何を伝えたいのか』が見えてくるんです。そうするとリサイタルで弾く曲の選び方も変わってきて、選曲に何らかのテーマを持たせたくなります。今回のプログラムの趣旨は『人生への闘争』。個人的なテーマではありますが、嬉しいことも悲しいこともある人生で、その感情に対峙しよう、という気持ちを込めました」
とどまることない勢いで成長をみせる阪田知樹は、ヤマハホールでどんな音楽を描き出してくれるのだろう。彼が創り出す世界観、ピアノの音色に期待は高まるばかりだ。
日時:2016年3月4日(金)19:00開演(18:30開場)
場所:ヤマハホール(東京都中央区銀座7-9-14 ヤマハ銀座ビル7F)
料金:4,000円(税込)
曲目:W.A.モーツァルト/幻想曲 ハ短調 KV396(385f)、R.シューマン/ピアノ・ソナタ 第1番 嬰へ短調 Op.11、武満 徹/閉じた眼 -瀧口修造の追憶に-、F.リスト/ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178 R.21、J.シュトラウス2世(L.ゴドフスキ編曲)/「芸術家の生涯」による交響的変容