今月の音遊人
今月の音遊人:塩谷哲さん 「僕の作る音楽が“ポップ”なのは、二人の天才音楽家の影響かもしれませんね」
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微妙な差分を聴き分け、目指す音を設計する/ホームオーディオの音づくり
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2024.6.27
tagged: オトノ仕事人, AVENTAGE, TRUE SOUND, HA-L7A, ホームオーディオ
ホームオーディオの要であり、メーカーや製品の個性を決める音。それは、誰がどのようにしてつくっているのだろう。
高品位な音を再現するアンプ「AVENTAGE(アベンタージュ)」やヘッドホンリスニングにおける究極の音を突き詰めたヘッドホンアンプ「HA-L7A」など、数多くのコンポーネントの音づくりを手がけてきたヤマハの技術者、佐藤亮太さんに聞いた。
そもそも、「良い音」とは何だろう。絶対的な定義となると難しいかもしれないが、ヤマハがすべてのホームオーディオ製品で一貫して追求しているのが「TRUE SOUND」。簡単に言えば、アーティストが込めた想いをありのままに表現し、聴く人の感情を動かす音だ。ハイエンドからエントリーモデルまで多彩な製品を世に送り出しているメーカーであるがゆえ、どの製品、どの価格帯においても“ヤマハの音”を一貫した価値としてユーザーに伝え、届けていくために生まれた音質指針だ。
「まず、製品の企画担当者からその製品でお客様に体験していただきたいイメージを共有してもらいます。われわれ開発者がそれを具体的な目指す音として要約し、その音に向けて音づくりをします。本格的な音づくりに入る前に、まずは社内にある『TRUE SOUND』チームにどんな音を目指すのか、そのためにはどういう技術要素で構成するのかといった方向性を具体化、言語化して伝え、確認し合う作業を行います」
音づくりの方向性が決まったところで、いよいよ設計がスタートする。
音を楽しむホームオーディオ製品はプレーヤー、アンプ、スピーカー、ヘッドホン・イヤホンなどさまざま。それぞれにおいて「音づくり」が追求されているが、佐藤さんが主に携わってきたのは、AVアンプやヘッドホンアンプなどのコンポーネントだ。
「コンポーネント機器の音づくりにおいては、開発者は大きく3つの専門性に分かれています。ひとつは筐体を構築するメカニックのエンジニア、そして中身の機能的な部分を構成する電気のエンジニア、さらにコンピュータープログラムを設計・開発するソフトウェアのエンジニアです。コンポーネントでは、音は電気を通して鳴るので音づくりには電気の影響が大きいと思われがちですが、筐体も非常に重要ですし、ソフトも制御の仕方によって音に影響してしまうんです」
佐藤さんが担当しているのは、音づくりの要である電気の設計。アンプはプレーヤーが読み取った音の信号を増幅し、音量や音質、音のバランスを調整する。その音の土台となり、音質を大きく左右するのが回路設計だ。
「自分たちが目指している電気の音づくりを進める上で、まずはマイナスの影響を生まないためのベースづくりを考えながらスタートします。そのなかで、こう変えるとこうこうなるのでは?という仮説をいくつか挙げます。初期の設計では測定器と基板を机に置いて実験しつつ、過去に自分たちがやってきたことと照らし合わせ、そもそもベースの設計が誤っていないか、自分たちが考えたように正しく音の出る流れができているかどうかの確認を行います」
さらに、コンデンサや抵抗をはじめとする多くの部品の選定も音質やバランスに大きくかかわってくる。音を特徴づけるのが、部品とその組み合わせ。パーツ変更を繰り返しながら、最適な音を探っていく。
「最終的には、全体の音を整えるという音質設計の仕事があります。何十個も同じ部品が使われているのですが、たとえばそのなかのひとつを変えただけで音が変わってくることがあるんです。変える前後の音の差分を聴き分けて目指す方向性に設計を整え、仕上げていくことができるか否かが重要なポイントだと思います」
さらに、試作品と量産品、国内工場と海外工場でつくった製品とで音に微妙な差分が生まれることもある。
物理的な要素を変更すれば、音は必ず変化する。修正箇所とパーツの選択・組み合わせのなかから、意図した音に行き着くためには粘り強さが必要だ。そして、重要なのは “差分”を聴き分ける耳だという。その能力は、いかにして磨かれているのだろう。
「特殊な訓練があるのかとよく尋ねられることがありますね。そういう訓練はないわけではないですが、それ以前に誰しもが測定誤差に埋もれてしまうような違いも含めて聴き分ける力を持っていると思うんです。ただ、それを言葉に置き換えられないだけ。まずは音に興味を持ち、根気よく向き合うことが重要だと思います。興味を持って同じ音を何回も聴けば、良し悪しか、正解か不正解かだけでは語れない表現ができるようになると思います」
言葉に置き換えることは、なぜ重要なのか。ある一定の基準に対して評価ができるようになり、目指すものを実現するには何をすればいいのかがわかるようになるという。音の違いを言葉で表現することは、言葉を音に落とし込むことにもつながる。
大学時代、イヤホンによって音がまったく違うことに気づくと、その差分の追求が楽しさに変わり、のめり込んでいった。入社のきっかけも、オーディオが好きだったことにある。電気開発に携わって13年目を迎えた佐藤さんにとって、音づくりとは何かを尋ねてみた。
「趣味ですといいたいところですが、お客様とのコミュニケーションの第一歩であり、誠意をお伝えできる仕事ですね。好きなことを仕事にできてよかった反面、そこにはやはり大きな責任が伴います。ゴールは、お客様それぞれがヤマハの製品に満足され、文字通り音を楽しんでいただいたときでしょうか。また、さまざまなご意見もいただきます。お褒めの言葉はもちろんうれしいのですが、厳しいご意見も同じく貴重な財産です。その言葉には期待も含まれていると思っていますし、今後活かしていく材料として、前を向くきっかけを与えてくれます」
オーディオ好きだけあって、他社製品も積極的に使い、その動向に敏感なのも佐藤さんの強みだ。
「オーディオも趣味で大好きなのですが、それと同様に料理も大好きなんです。いつかオーディオ・音楽好きが集まるカフェのような空間をつくるのが夢です。とくにヘッドホンやイヤホンはファン同士の交流が盛んなので、それぞれのこだわりを自由に持ち寄り、交流ができるような場をつくれたらうれしいです」
将来の夢に向けて今やるべきは、お客様の顔を思い浮かべながら、自分が自信を持てるものをつくり続けていくことだと力を込める。
「決してひとりでできることではなく、多くの人が関わるチームあってのことなので、他の方へのリスペクトを絶対に忘れることなく、幅広い人と関わり合いながら今後も音づくりに関わっていきたいと思っています」
Q.子どものころになりたかった職業は?
A.高校生までは、医師ですね。心や脳のしくみについて、漠然とですが考えるような子どもでした。家族の影響で幼少期から知っていた職業だということもあったのでしょうが、誰かの役に立つことが実感できる職業に漠然と憧れを抱いていたのだと思います。そんな大きな夢を見ていた子どもでした。
Q.好きな音楽のジャンルは?
A.音楽はジャンルを問わずたくさん聴きます。親の影響で幼少期から聴いていたエアロスミスやクイーン、B’zなどはいまでも好きですね。そのほかもアニソンやヒーリング系、インストまでジャンルや生・打ち込み、新旧かかわらずまんべんなく聴いています。まだ小さな子どもがいるので、最近では『おかあさんといっしょ』の楽曲がリビングではよく流れています(笑)
Q.最近行ったライブは?
A.ライブにはよくいきます。好きなアーティストさんたちはもちろんですが、やはりいろんなジャンルに興味を持つようにはしてます。妻が朝の情報番組きっかけでハマっていたBE:FIRSTというアーティストがいるんですが、楽曲だけでなくダンス含めてパフォーマンスがすごくて。誘われるがまま一緒にライブに行きました。テレビやミュージックビデオで見る以上の迫力に圧倒されました。
Q.趣味は?
A.オーディオ以外では、料理、お酒(ウイスキー)、模型、ランニングですね。料理は、昔は凝ったものを作るのが好きでしたが、今は時短でも美味しくみたいなコンセプトでいろいろ試しています。お酒も元々は芋焼酎が好きで、ここ10年くらいはウイスキーにハマってコレクションもしていて、ゆっくり音楽を聴きながら夜な夜なちょっとずつ味わってます。模型は、もともとプラモデルが好きで、学生時代は模型のサークルに所属していました。インドアに思われがちですが実は運動も大好きです。最初は体重減らそうと思ってランニングを始めたんですが、次第に走ること自体が楽しくなり、休日は早起きしてランニングして朝ごはん作って……という流れが好きですね。
Q.心がけていることは?
A.やりたいことしかやらない。ということですね。これはもちろん文字通りではないです。誰しもが、思ってもみないこと、興味がないこと、嫌と感じることをやらなければならない時はあると思いますし、私にも当然あります。それを反発したまま向き合うのではなく、どうしたら反対に捉えられるかを考えています。そのために一つの事柄をいろんな角度から見るように心がけ、嫌だったこと、興味がなかったことも、見方を変えると好きになれるかもしれない、ゆくゆくは自分の興味の方向に向かうかもしれないと、常にプラスの感情で向き合うようにしているのです。
文/ 福田素子
photo/ 坂本ようこ
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