Web音遊人(みゅーじん)

ジャズとデュオの新たな関係性を考える

ジャズとデュオの新たな関係性を考えるvol.1

ジャズ専門誌「jazzLife」2017年2月号掲載の“2016年の年間ディスク・グランプリ”で、ボクはこんな指摘をしている。「気になっているのが“デュオ”というフォーマット」というものだ。

毎年、その1年間でリリースされたジャズ・アルバムのなかから自分が気になった(あるいは気に入った)ものをピックアップし、順位とコメントをつけるという企画だが、これがなかなか手こずる作業となる。

というのも、ただ好みに合ったアルバムを選んだだけでは説得力に欠けるし、リストからはなにも“見えてこない”からだ。

“見えてくる”ためには、傾向をつかむ必要があり、そのためには俯瞰しなければならない。

2016年のリリース状況を俯瞰してみると、ベスト10に選出するまでには高まっていないまでも、無視できない動きがあった。

それが“デュオ”だった。

その原稿で触れたのは、森山威男&板橋文夫『おぼろ月夜』、佐山雅弘&藤原清登『思い出す、会いたがる、恋い慕う』、橋本一子&中村善郎『デュオ』、佐藤芳明&伊藤志宏『コレオグラフ』、pd(大森菜々&酒井美絵子)『うさぎとねこ』、野瀬栄進&武石聡『THE GATE』、田中邦和&林正樹『Double Torus』、高樹レイ&伊藤志宏『DUO two』といった作品。

2016年にリリースされた膨大なアルバムのなかからボクが耳にすることができたものはかぎられるから、母数とするには心許ないという意見もあるだろう。しかし、それを割り引いても無視するには勇気を必要とするほどの“傾向”が、ボクには“見えてくる”という状況だったのだ。

明けて2017年。その傾向はさらに強まっていると感じている。というのも、ジャズにおけるデュオを象徴すると言っても過言ではない人物のエポックがこの年にまたひとつ、刻まれることになったからだ。

その人物の名は、ゲイリー・バートン。

ヴィブラフォンでジャズに数々のイノヴェイションをもたらしたリヴィング・レジェンドのひとりだが、2017年6月の来日公演を最後に「現役引退」を表明した。

彼のイノヴェイションのひとつにデュオがあることは、異論がないところだろう。

1972年に彼がピアニストのチック・コリアと制作した『クリスタル・サイレンス』というデュオのアルバムは大成功を収め、ジャズにおけるデュオというフォーマットの概念を変えるまでの大きな波を起こした。

まずは次回、『クリスタル・サイレンス』がジャズ・シーンにおけるデュオのイメージをどのように変えたのかをおさらいしてみたい。

<続>

ジャズとデュオの新たな関係性を考える<全編>

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
富澤えいちのジャズブログ富澤えいちのジャズ・ブログ道場Facebook

 

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:Crystal Kayさん「音楽がなかったら世界は滅びてしまうというくらい、本当に欠かせない存在です」

2280views

音楽ライターの眼

名手ぞろいの楽団員が一夜限りの室内楽/ベルリン・フィル スペシャル・アンサンブル Vol.3

6034views

練習用のバイオリンとして進化する機能と、守り続けるデザイン

楽器探訪 Anothertake

進化する機能と、守り続けるデザイン

5108views

楽器のあれこれQ&A

目的別に選ぼう電子ピアノ「クラビノーバ」3シリーズ

2805views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】注目の若手ピアニスト小林愛実がチェロのレッスンに挑戦!

9628views

出演アーティストの発掘からライブ制作までを一手に担う/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事 (前編)

オトノ仕事人

出演アーティストの発掘からライブ制作までを一手に担う/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事 (前編)

16903views

グランツたけた

ホール自慢を聞きましょう

美しい歌声の響くホールで、瀧廉太郎愛にあふれる街が新しい時代を創造/グランツたけた(竹田市総合文化ホール)

7080views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

7433views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

13822views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:人を楽しませたい!それが4人の共通の思い

6488views

山口正介 Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

マウスピースの抵抗?音切れ?まだまだ知りたいことが出てくる、そこが面白い

5786views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

29858views

おとなの楽器練習記:岩崎洵奈

おとなの楽器練習記

【動画公開中】将来を嘱望される実力派ピアニスト、岩崎洵奈がアルトサクソフォンに初挑戦!

11575views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

19516views

音楽ライターの眼

連載14[多様性とジャズ]傑作『ミンガス・アー・アム』に包括された3つの特色

1499views

小林洋平

オトノ仕事人

感情や事象を音楽で描写し、映画の世界へと観る人を引き込む/フィルムコンポーザーの仕事

1430views

われら音遊人

われら音遊人:みんなの灯をひとつに集め、大きく照らす

5579views

Disklavier™ ENSPIRE(ディスクラビア エンスパイア)- Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

ピアノのエレガントなフォルムを大切にしたデザイン

6693views

札幌コンサートホールKitara - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

あたたかみのあるデザインと音響を両立した、北海道を代表する音楽の殿堂/札幌コンサートホールKitara 大ホール

17782views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は人前で演奏してこそ、上達していくものなのだろう

8092views

アコースティックギター

楽器のあれこれQ&A

アコースティックギターの保管方法やメンテナンスのコツ

3923views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

9215views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

29858views