今月の音遊人
今月の音遊人:小沼ようすけさん「本気で挑まなければ音楽の快感と至福は得られない」
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「地上で最高のトランペット奏者」と評されるその演奏に恍惚とする/ホーカン・ハーデンベルガー トランペット・リサイタル
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2018.5.14
tagged: トランペット, ホーカン・ハーデンベルガー
15歳でデビュー以来、40年以上に渡ってトランペット界のトップを走り続けてきたホーカン・ハーデンベルガーの公演を聴いた。演目はすべて近現代の作品。還暦が近いにもかかわらず疲れを微塵も見せず、若々しく完璧な名演で魅了してくれた。
前半の1曲目は、オネゲル「イントラーダ」。コンクールの課題曲として書かれた難曲だが、幅広い音域&跳躍やトリプルタンギングのパッセージなどを、彼はやすやすと表現。曲名が意味する「祝祭的なファンファーレ」にふさわしい秀演だった。
続いては、エネスコ「伝説」と、フランセ「トランペットとピアノのためのソナチネ」。前者は中間部の輝かしい強音が秀逸で、後者は第1楽章やミュートを使う第2楽章の細やかなパッセージをかすれひとつなく吹き抜いていたのが圧巻だった。
その後、共演のピアニスト、イム・スヨンがソロで、プーランク「8つの夜想曲」より第1番、2番、7番を披露。韓国に生まれ、パリ音楽院で学んだ彼女は、オリヴィエ・シャルリエ(バイオリン)やエマニュエル・シュトロッセ(ピアノ)ら、フランス系演奏家との共演歴が豊富で、今回のデュオもハーデンベルガーが同学院の出身者であることが縁になったのかもしれない。彼女はこの日、後半にもソロで、ドビュッシー「前奏曲集第2集」より「月の光がそそぐテラス」「オンディーヌ」を演奏。いずれも繊細なタッチとエレガントな歌い回しが巧みで、シャルリエら巨匠たちから愛される理由がよくわかるピアノだった。
後半は、武満徹「径」と、西村朗「ヘイロウス」の邦人作品からスタート。ハーデンベルガーによって初演された「径」では、ミュートつきの譜面台を置いて、強音と弱音の一人芝居のような対話を流れよく彫琢。一方、キリスト教の美術品を破壊するオスマン帝国を描いた「ヘイロウス」では、ピアノとの当意即妙な掛けあいの下、表情豊かな名演を展開。途中、トランペットが後ろを向いてピアノの響板に音をあて、オリエンタルな残響を演出したのは衝撃的だった。
この後、前述のピアノ・ソロが続き、プログラムは終盤のビッチ「ドメニコ・スカルラッティの主題による4つの変奏曲」と、アーバン『ベッリーニの歌劇「ノルマ」の主題による変奏曲』へ。曲名の通り、前者はバロックの鍵盤ソナタが、後者はロマン派のオペラ・アリアが各々原曲で、それまでの現代曲と曲調の異なる作品が並べられた。ここでは、もともとバロックや古典のスペシャリストとして出発したハーデンベルガーらしい、優美で、大らかで、輝かしい、まるでテノール歌手のような妙技を堪能した。
“現代音楽=難解”のイメージを払拭し、途中に日本の作品も紹介し、最後は音楽の美しさやすばらしさを理屈抜きで伝える。会場で偶然居合わせた、長年彼の大ファンだという某レコード会社スタッフの「ずっと聴きたかった夢の公演が実現しました」という言葉にしみじみと納得し、恍惚として家路についた。
渡辺謙太郎〔わたなべ・けんたろう〕
音楽ジャーナリスト。慶應義塾大学卒業。音楽雑誌の編集を経て、2006年からフリー。『intoxicate』『シンフォニア』『ぴあ』などに執筆。また、世界最大級の音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」のクラシックソムリエ、書籍&CDのプロデュース、テレビ&ラジオ番組のアナリストなどとしても活動中。
文/ 渡辺謙太郎
photo/ Ayumi Kakamu
tagged: トランペット, ホーカン・ハーデンベルガー
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