今月の音遊人
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「ビジネスにも役立つ世界の教養」とは?音楽史と世界史とを結んだ画期的な一冊/『クラシック音楽全史 ビジネスに効く世界の教養』
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2019.3.27
tagged: ブックレビュー, クラシック音楽全史 ビジネスに効く世界の教養
「クラシック音楽を、まずは読んで楽しんでもらいたい」。そんな視点から音楽史を捉えた「クラシック音楽全史」は、“世界共通のビジネスツール”としても役立つ書だ。音楽史というと音楽の専門家が学ぶものと思われがちだが、本書を読むと、音楽家や作品の背景と世界の歴史には密接な関わりがあることがわかる。
たとえばイギリスの市民革命やフランス革命。これらを機に市民の権利が生まれ、音楽家は貴族階級の使用人から脱して自由な創作活動で演奏会の入場料を得るようになる。それに呼応するかのように、ベートーヴェンは「われわれ市民も貴族も皆平等だ、という思いを強くし、王侯貴族のためでなく、国民のためですらなく、人類のために曲を書く」と宣言する(本書より)。作曲家が自分の感情を音楽に託した、初めての人がベートーヴェンだという。やがて自由に音楽を謳いあげる「ロマン派」の時代が訪れる。
また、イギリス産業革命も音楽のありように劇的な変革をもたらした。工業化によって管楽器の大量生産が可能となり、音律も平均律に標準化されていく。メカニズムの面でも進化し、トランペットやホルンにバルブがつけられると、半音階が演奏できるようになり、曲の作り方もより多様化して行く。さらに、産業革命によって増えた富裕な市民が娯楽を求め、豪華なオペラが人気となっていった。
こうして世界の動きと音楽史を並べて俯瞰してみると、作曲家の一人の人としての生き様がより生き生きと感じられてくる。逆に、世界史にも人の営みが見えてきて、現代とのつながりも具体的にイメージできるようになる。音楽史と世界史の両方を、より鮮明に浮かび上がらせた画期的な書といえるだろう。
ところで、本書を著したのは歴史家でも音楽家でもない。著者は東京フィルハーモニー交響楽団で広報渉外部長を務める松田亜有子さん。音楽を学び、卒業後に東京フィルに職を得るものの、一時期、音楽とは縁のない事業会社で「武者修行」をし、その間に「コンサートは業種や国を超えた人が集まる社交の場であり、同じ曲を聴き感動を共有することはとても大きなコミュニケーションの一つ」と気づいた。そして、クラシック音楽に詳しくない人にも楽しめる本をまとめようと考え、「音楽というフィルターを通じて、新たな世界史の見方もできるよう、意識的に社会的背景の解説を多く盛り込んだ」(まえがきより)本書が誕生した。
松本さんはこうも記す。「私はこの本で、薀蓄(うんちく)を語るつもりはなく、日々、お客さまと接するなかで、よく尋ねられることを思い出しながらまとめました。音楽は世界共通の言葉なので、地球上のすべての人たちと音楽について語り合うことができます。ビジネスの世界でテーブルについた時でも、きっと音楽の話が花を添え、新たなビジネスが生まれていくのではないでしょうか」(おわりにより)
「世界でよく演奏される作曲家ランキング」「イギリス産業革命と音楽史」「プッチーニの主なオペラ作品」など、ビジネスの場でも話題の種になりそうな資料をはじめ、作曲家の肖像や絵画、年表といったビジュアル素材も豊富なので、興味を広げながらテンポよく読み進めることができる。クラシック音楽に詳しい人も詳しくない人も、これまでクラシック音楽に興味のなかった人さえも、知ることが楽しくてワクワクする本書。ぜひご一読を。
『クラシック音楽全史 ビジネスに効く世界の教養』
著者:松田 亜有子
発売元:ダイヤモンド社
価格:1,600円(税抜)