Web音遊人(みゅーじん)

AFC

音空間を思いのままに──AFCを活用し、新たな音響演出に挑む実験会

1969年からホールや劇場などの音響コンサルティング、音響設計を行ってきたヤマハの空間音響グループ。その豊富な経験と知見によって開発されたAFC(Active Field Control)は、音空間全体をコントロールできる革新的なシステムだ。
2022年7月29日、このAFCシステムを活用した新たな音楽表現の可能性を探る実験会がヤマハ銀座スタジオで開催された。

スタジオがコンサートホールに!音の位置も自在

AFCには「AFC Enhance」と「AFC Image」のふたつの技術がある。
前者の「AFC Enhance」はそれぞれの空間固有の響きを任意にコントロールすることで、ひとつの空間でスピーチからクラシックコンサートまでさまざまな用途に応じた響きを創り出すことができる音場支援システム。一方の「AFC Image」は、音の定位を自在にコントロールする音像制御システムだ。このふたつの技術により、没入する音響空間を創り出すイマーシブオーディオソリューションを提供する。

AFC

空間の響きを最適化する音場支援システム『AFC Enhance』

百聞は“一聴”にしかず、だ。当日、ステージに姿を現したのは第1バイオリン、第2バイオリン、ヴィオラ、チェロの弦楽四重奏の演奏者たち。モーツァルト『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』のデモ演奏では、調和のとれた豊かな響きが感じられた。
「AFC Enhanceを使ってもともとこのスタジオが持っている響きを自然に増幅させ、コンサートホールのような響きで聴いていただきました」
そう話すのは、空間音響グループの大木大夢おおぎひろむさん。銀座スタジオに設置された12本のマイクと55台のスピーカーを使い、人工的に空間の響きをつくり出しているという。
「たとえばオルガンなら響きが豊かな空間がいいですし、スピーチであれば明瞭性のために響きをなるべく抑えた空間のほうが聞き取りやすいということがあります。電気音響・信号処理技術を用いて響きの長さや豊かさを変えることで、ひとつの空間でさまざまな演目に対応できるのがAFCです」
また、通常のリバーブとは異なり、演奏音だけでなく会場全体の響きを自在に変えられるのが大きな特徴だとも言う。続いて行われたバイオリンのデモ演奏、そして我々の拍手からもそれを実感することができた。

音の定位を自在にコントロールする音像制御システム「AFC Image」

続いて、「AFC Image」について解説。これは、音の位置を平面的、立体的にリアルタイムで自由に動かすことができ、まるで特定の位置から音が出てくるようにする技術だ。こちらも、会場に設置されたスピーカーをコントロールして実現しているという。また、長年にわたるノウハウをもとに開発された3Dリバーブシステムを搭載することで、リアルな臨場感ある音場をつくり出している。

AFC

デモでは、先ほどの4人の奏者たちがサイレントバイオリン、サイレントヴィオラ、サイレントチェロを使って演奏を行った。
ご存じのようにサイレント楽器は、アンプにつながない状態で弾くと小さな音がするだけ。最初は「AFC Image」オフの状態で演奏、その後オンにして奏者の位置に音を配置すると、明らかに奏者の手元から音が聴こえてくる。さらに、音を後方に動かしたり、3Dリバーブの機能をオンにしたりすることでさまざま動きや響きが追加されることが実感できた。

AFC

AFCのために作曲された弦楽四重奏曲を初披露

さて、ここからが今回の実験会の目玉だ。一般的にイマーシブオーディオシステムは、映画やイベントなどで活用されることが多く、コンサートホールやオペラハウスでは生音が重視される傾向にある。
しかし、AFCを用いて新たな音楽表現ができるのでは……。ヤマハでは2017年からロチェスター工科大学のキム・ソンヨン准教授と共同研究を行い、その可能性を探ってきた。2021年にはジュリアード音楽院に在籍し、作曲家、ピアニスト、マルチメディアピアニストとして活動するオム・シヒョンさんに、研究の一貫としてAFCシステムとクラシック音楽を組み合わせた弦楽四重奏曲の作曲を依頼した。
今回は、AFCのために作曲された『弦楽四重奏曲 第2番「For AFC System」』の初演が4人の奏者によって行われる。本作では、AFCを一種の楽器として捉え、弦楽四重奏と融合することで新たな音楽表現を試みているという。
作品は、展開によって響きが変化し、「AFC Image」による効果音も加わって壮大でドラマチック。まさに新しい風を感じる魅力的なものだった。

AFC
演奏後には、キム准教授とオムさんが登壇し、大きな拍手で迎えられた。
「曲を書き始めるにあたって最初に考えたことは、速いセクションとゆっくりとしたセクションの2つを行き来するということです。速いセクションでは“砂漠”をイメージし、ゆっくりなセクションでは“山”をイメージしました。2つの違うシーンで異なる特徴を持たせており、それぞれを旅していきます。最終的にはSF映画のように空間が結合し、2つの場面が融合します。それを表現するため、曲の最後のシーンでは時計の音やベルの音を効果音として配置しました。AFCのシステムはとてもすばらしく、単なる山のイメージだけではなく、昼と夜の“時間帯”までを想像できるんです。AFCの作り出す山頂のイメージでは天気もよく空も澄んでいて、その場の雰囲気がよく出ており、一音一音の奥まで深く入り込むことができました」
オムさんは作曲にあたってのコンセプトやAFCについてそう話す。一方、キム准教授は演奏会を通じて感じたAFCの可能性についてこう語った。
「全体を通したアイデアとしては、音楽の表現をAFCという新しいテクノロジーを使ってどのように拡大できるかということでした。そこで、今回はオム・シヒョンさんにAFCを前提とした曲を作曲いただきましたが、他のアーティストにとってもAFCはあらゆる芸術の可能性を広げるものだと思います」
クラシック音楽やオペラ、ミュージカル……。AFCが広げる可能性に期待が高まる。

(写真左)ロチェスター工科大学のキム・ソンヨン氏。(写真右)作曲家・オム・シヒョン氏。

■AFC(アクティブフィールドコントロール)

あらゆる空間において、音を自在にコントロールし最適な音環境を創り出すことができるヤマハのイマーシブオーディオソリューションです。
詳細はこちら

プロオーディオインフォメーションセンターへのお問い合わせ

電話番号:0570-050-808
プロオーディオ・インフォメーションセンター

photo/ 宮地たか子

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

facebook

twitter

特集

亀井聖矢

今月の音遊人

今月の音遊人:亀井聖矢さん「音楽は感情を具現化したもの。だからこそ嘘をつけません」

3205views

音楽ライターの眼

UKパンク・ロックの伝説ザ・ダムドがオリジナル編成で2021年に復活

8850views

練習用のバイオリンとして進化する機能と、守り続けるデザイン

楽器探訪 Anothertake

進化する機能と、守り続けるデザイン

5297views

楽器のあれこれQ&A

初心者必見!トランペットをうまく鳴らすコツと練習方法

125662views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ギタリスト木村大とピアニスト榊原大がトランペットに挑戦!

7465views

オトノ仕事人

アーティストの個性を生かす演出で、音楽の魅力を視聴者に伝える/テレビの音楽番組をプロデュースする仕事

8631views

弦楽四重奏を聴くことが人生の糧となるように/第一生命ホール

ホール自慢を聞きましょう

弦楽四重奏を聴くことが人生の糧となるように/第一生命ホール

9265views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

6263views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

20136views

スイング・ビーズ・ジャズ・オーケストラのメンバー

われら音遊人

われら音遊人:震災の年に結成したビッグバンド、ボランティア演奏もおまかせあれ!

5957views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

あれから40年、おかげさまで「音」をはずさなくなりました

4755views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26127views

大人の楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

11694views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

31423views

音楽ライターの眼

ビオラの歌、共鳴するピアノ/伊藤恵&今井信子デュオ・コンサート

2807views

アカネキカク akaneさん

オトノ仕事人

楽曲のイメージをもとに、ダンスの振りを考え、演出をする/振付師の仕事

2585views

われら音遊人

われら音遊人:オリジナルは30曲以上 大人に向けて奏でるフォークロックバンド

4596views

ヤマハギター50周年を機にアコースティックギターのFG/FSシリーズがフルモデルチェンジ

楽器探訪 Anothertake

アコースティックギターFG/FSシリーズがフルモデルチェンジ

19770views

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、新時代へ発信する刺激的なコンテンツを/東京芸術劇場 コンサートホール

ホール自慢を聞きましょう

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、刺激的なコンテンツを発信/東京芸術劇場 コンサートホール

12693views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

大人の音楽レッスン、わたし、これでも10年つづけています!

7253views

ヤマハ製アコースティックギター

楽器のあれこれQ&A

目的別に選ぶ、ヤマハ製アコースティックギター

11543views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

6263views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10373views