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今月の音遊人:ユッコ・ミラーさん「音楽は人の心を映すもの。だからごまかすことはできません」
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だんだんと熱気を帯びてドラマチックに/三浦文彰 ブラームス:バイオリン・ソナタ・リサイタル-清水和音(ピアノ)を迎えて-
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2022.10.25
俊英が居並ぶ日本の若手バイオリニストのなかでも、実力・人気ともに、ひと際輝いて異彩を放っているのが、三浦文彰だ。日本はもとより、ヨーロッパ各地でも一流指揮者やオーケストラとの共演を果たして躍進中。近年はまたピアニスト辻井伸行とのコンビで日本各地でのコンサートを行って人気が高い。その彼が、2022年8月31日、ヤマハホールでブラームスのバイオリン・ソナタ全曲によるリサイタルを行った。共演は近年とくにその音楽性が高く評価されている、日本を代表するピアニスト、清水和音。インティメイトで豊かな空間を誇るヤマハホールで、じっくりと音楽を聴かせる豊饒なときが流れた。
ブラームスはその生涯に3曲のバイオリン・ソナタを作曲している。この日は第1番から3番までの全曲演奏。最初は『雨の歌』として知られるメランコリックな曲想の第1番。3楽章に歌曲『雨の歌』のメロディが使われていることからの、命名だ。安定した清水和音のピアノが一歩前にでて奏でていく。三浦文彰のバイオリンは繊細で音色が美しい。この日は1曲目の終わりで休憩に入る。
後半の第2番、第3番と進むにつれて、バイオリンの調子が上がり、演奏も熱気を帯びてきた。艶やかな音色の輝きが際立ち、ニュアンスも豊かさを増す。ピアノも力強い。緩徐楽章の2楽章は美しい音色でよく歌い、ピアノとの息も良く合っている。3楽章は穏やかな楽想ながら、ピアノとの緊密な絡み合いが印象的だった。
そして最後の第3番はこの日の白眉だった。4つの楽章からなる、ドラマチックな曲で、バイオリンは最初から、緊迫した音楽を奏でる。ピアノにも熱が籠り、バイオリンの音色も艶やかさが増し、激しい胸の想いを吐露するような楽想が続く。2楽章は穏やかなアダージオで、美しい旋律が奏でられる。そしてメランコリックな短い4楽章を経て、最後の楽章に。プレスト・アジタートのタイトル通り、激しい曲想が始まる。三浦文彰のバイオリンはしだいに情熱的になり、音色も輝きを増していく。激しいピアノとの競演が頂点に達したところで、フィナーレに突入。ホールの熱気も急上昇したところで、曲が終了した。
盛大な拍手に応えたアンコールは2曲。三浦が「もちろん、ブラームスです」と曲を紹介。それは『スケルツォ ハ短調』だった。シューマンを師と仰いで彼のもとに出入りしていた若きブラームス。ある日、名バイオリニストのヨーゼフ・ヨアヒムを歓迎する曲を書くことになり、ブラームス、シューマン、アルベルト・ディートリッヒ(作曲家で指揮者)の3人が合作で『F.A.E.ソナタ』を書きあげた(1853年)。F.A.Eとはヨアヒムがモットーとしていた「自由に、しかし孤独に」の文字の頭文字をとったものとか。そのソナタの第3楽章がブラームスの『スケルツォ ハ短調』なのだ。そして曲目は、「もちろん、シューマンです」と三浦が説明。『F.A.Eソナタ』の第2楽章をシューマンが作曲したのだ。その合作はヨアヒムのバイオリン、クララ・シューマンのピアノで初演されたという。そんなエピソードのある、ちょっと渋い2曲をアンコールに選んだ三浦文彰と清水和音。プログラム全体の企画力にも、拍手!ロマンチックなブラームスの音楽に、存分に酔いしれた一夜となった。
石戸谷結子〔いしとや・ゆいこ〕
音楽ジャーナリスト。1946年、青森県生まれ。早稲田大学卒業。雑誌「音楽の友」の編集を経て、85年からフリーランスで活動。音楽評論の執筆や講演のほか、NHK文化センター等でオペラ講座も担当。著書に「石戸谷結子のおしゃべりオペラ」「マエストロに乾杯」「オペラ入門」「ひとりでも行けるオペラ極楽ツアー」など多数。
文/ 石戸谷結子
photo/ Ayumi Kakamu
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