今月の音遊人
今月の音遊人:亀井聖矢さん「音楽は感情を具現化したもの。だからこそ嘘をつけません」
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N響コンサートマスターと6人の名手ならではの極上のアンサンブル/伊藤亮太郎 弦楽アンサンブル
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2023.4.17
難関チャイコフスキー国際コンクールでディプロマ賞を獲得したのが1994年だから、いつの間にやら30年近く。“彼”とその仲間たちは、もはや若手ではなく、中堅でもなく、クラシック音楽界をど真ん中で支える中核と改めるべきなのだろう。
2015年からNHK交響楽団のコンサートマスターを務める“彼”こと伊藤亮太郎と、その“彼”と気心が知れ、音楽的にも絶大な信頼を寄せる名手たちによる人気シリーズの最新回が、2023年2月6日にヤマハホールにて開催された。
2018年にスタートしたこのシリーズは、伊藤、横溝耕一(以上バイオリン)、柳瀬省太、大島亮(以上ビオラ)、横坂源、辻本玲(以上チェロ)という日本有数のオーケストラ首席奏者やソリストが毎回集う固定メンバー。だが今回は、編成上の関係からコントラバスの西山真二も加わった7名で行われた。
この日の演目は、19世紀後半から20世紀に書かれた4つの傑作。
「ロシア5人組」の一人で医者でもあったボロディンの初期作品にあたる弦楽六重奏曲は、全4楽章で構想された前半の2つの楽章だけが現在に伝わる。ロシア風のメランコリックな曲想が特長だが、この日、6つの弦楽器の繊細で見通しのよい緩急から生まれた美しい対話の数々は、彼らの阿吽の呼吸の賜物だった。
同じくロシアの人気作曲家チャイコフスキーからは、『フィレンツェの思い出』を演奏。極寒の地に生まれた作曲者が、仕事で滞在したイタリアの風光明媚に触れた際の感動が瑞々しく綴られた傑作を、6人はそれぞれソリストのように秀麗に歌い上げてみせる。だが、そこではオーケストラ在籍者が多いこともあってか、アンサンブルとしての緻密さと抑制が決して失われないのもみごとだった。
そして、ドイツの巨匠リヒャルト・シュトラウスからは、『弦楽六重奏のためのカプリッチョ』と『メタモルフォーゼン』の2曲が披露された。前者は、作曲者の最後のオペラにあたる『カプリッチョ』の冒頭を飾る前奏曲。ワーグナーを想わせる濃密な歌と重厚なアンサンブルで編まれているが、この日の6人は前述の2曲同様に過度な歌い回しを避けながら、良い意味で中庸の美を追求してゆく。
この行き方は、西山が加わった後者においても徹底。曲名「メタモルフォーゼン=変容」が示すように、合奏曲よりも各楽器のソロ的な動きに重きを置いた構成で、本来は23もの楽器によって演奏される難曲だが、音楽の縦と横の動きが双方において緻密を極めていたのが本当に素晴らしかった。また、今回が初出演ながら、そこで違和感をまったく感じさせなかった西山の妙技にも拍手。古今の作品に弦楽七重奏曲は少ないが、何らかの形で再びこの7人で聴いてみたい。そう強く願わずにはいられなかった。
渡辺謙太郎〔わたなべ・けんたろう〕
音楽ジャーナリスト。慶應義塾大学卒業。音楽雑誌の編集を経て、2006年からフリー。『intoxicate』『シンフォニア』『ぴあ』などに執筆。また、世界最大級の音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」のクラシックソムリエ、書籍&CDのプロデュース、テレビ&ラジオ番組のアナリストなどとしても活動中。
文/ 渡辺謙太郎
photo/ Ayumi Kakamu
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