今月の音遊人
今月の音遊人:Charさん「いろんな顔を思い出すね、“音で遊んでる”ヤツって。俺は、はみ出すヤツが好きなんだよ」
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それぞれの原点にあるそれぞれの思い/元ちとせ、ジェイムス・テイラー、エリーダ・アルメイダ
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2015.11.9
tagged: 元ちとせ, ジェイムス・テイラー, エリーダ・アルメイダ, 平和元年, ビフォア・ディス・ワールド, 歌わずにはいられない
2002年に「ワダツミの木」で衝撃のデビューを飾った元ちとせは今、故郷の奄美大島に暮らして歌っている。10歳と8歳の男の子2人を育てる母でもあり、新作『平和元年』は母としての願い、心の叫びの歌なのだと感じた。と同時に、奄美に生まれ、小学校時代の全校生徒は4人、体育の授業は近くの川で泳ぐこと、といった生い立ちの彼女にとって戦争という最悪の環境破壊、人も動物も植物も生きるものすべての命を奪う行為は本能として断じて許せないのだと、強い思いがひしひし伝わってきた。
これは、平和を、戦争反対を歌ったカバー集。収録曲は1981年に松任谷由実が発表した「スラバヤ通りの妹へ」や、加藤登紀子が日本語詞を書いた、パリで生まれた反戦歌「美しき五月のパリ」、谷川俊太郎の詩に武満徹が曲を付けた「死んだ男の残したものは」など、全12曲。平和を祈ることこそ私たちが立ち返るべき原点で、それを怒りの拳を振り上げてわめくのではなく、あの裏声を見事に使った歌唱で美しくたおやかに歌い上げたこのアルバム、すばらしく、つよく胸に響く。
驚いた新作が、ジェイムス・テイラーの『ビフォア・ディス・ワールド』。近年はキャロル・キングとの共演ライブで来日など話題も多かった元祖シンガーソングライターの彼、実はオリジナル・スタジオ・アルバムは十三年ぶりなんだそう。1968年にデビューし、40年以上キャリアのある彼にして、自らの歌を編むことが出来なくなっていたのか!と今さらに知った。そしてこのアルバムにはデビューした頃と同じテーマの曲が幾つもあるという。
彼の中で歌う自分をしかと見つめたときに胸にあるテーマは普遍で、ただひたすら進化し続けているそうだ。「17歳の自分と67歳の自分、大きく変わってない」と堂々と言う。確かにこのアルバムの曲の新鮮さ、繊細にしてしなやかで折れない強さ、昔と変わらない。音楽に初めて向かい合う人のような、みずみずしい驚きを自ら感じながら歌っている。うん、素敵だ。
今回の大穴はエリーダ・アルメイダの『歌わずにはいられない』。これは個人的に今年のベスト・アルバムになるかも。アフリカ、セネガルの沖合500キロに浮かぶ島国・カーボヴェルデ共和国、歌と踊りの国らしいが、初めて聞いた(あとで調べたら、グラミー受賞シンガー、セザリア・エヴォラの出身地だった!)。そこに生まれ、貧しい暮らしをしてきた少女は自らを励ますために曲を編み、歌うようになった。ここには彼女の人生そのものが凝縮している。ブルースだ。なのに、太陽のように輝いてリズムが飛び跳ね、躍動感いっぱい。なおかつ、石畳の道の向こうに伸びる薄暗い路地のようなものも見えてきそうな哀愁もある。
自身が爪弾くギターは詩情にあふれ、たっぷり想像を楽しませる。エリーダが育った、歌と踊りの国カーボヴェルデを訪れてみたくなった。