Web音遊人(みゅーじん)

Ichiko Aoba solo concert 2024 at Yamaha Hall

やわらかな雰囲気と強い個性で、魅力的な世界へ誘う/Ichiko Aoba solo concert 2024 at Yamaha Hall

クラシックギターの趣ある音色と繊細な歌声で世界中のファンを魅了するシンガーソングライターの青葉市子が、2024年2月16日にヤマハホールに初登場。やわらかで懐かしく、幻想的でもある青葉のステージは“親しみのある非日常”とも言うべき不思議な魅力を放っていた。

まるで“自然”を奏でるよう

ライブ開始前、主のいない舞台にはグランドピアノと椅子、譜面台のほかに、ランプがいくつか置かれている。舞台セットと呼ぶには簡素なのに、そこが“誰かの場所”であることを教えてくれている。ヤマハホールの木調の壁面も影響してるのか、森の奥にある隠れ家を見ているような気分にさえなる。

そんな興味をかきたてる舞台に、全身を羽根で包んだようなふわっとした衣装の青葉が登場。静かに椅子に腰かけると、ハミングをしながら演奏の準備を進める。いや、鼻歌といったほうがいいだろうか、それくらい自然なふるまいでいるものだから、こちらも自然と肩の力が抜けてくる。

Ichiko Aoba solo concert 2024 at Yamaha Hall

ギターをポロンと爪弾きはじめると、鼻歌はハッキリとしたメロディへと変わり、1曲目の『ココロノセカイ』が始まった。透きとおった歌声。ゆったり鳴らされる深みのあるギターの音色。それらが形作るあたたかい旋律は、やさしく降り注ぐ陽射しのようだ。

続く『Sagu Palm’s Song』はテンポがあがり、歌声もギターも躍動的に。オープニング曲で感じたのが陽光だとすれば、こちらは吹き抜ける風や波打つ草原といったイメージ。演奏中にはさまれる口笛も鳥のさえずりのようで、まるで“自然”を奏でているみたい。

Ichiko Aoba solo concert 2024 at Yamaha Hall

演奏が続くたびに新たな世界が生まれていく

青葉のギターの奏法はクラシックや民族音楽の要素が強く出ているが、メロディーはポップスのような親しみやすさを持っている。地声からファルセットまでを自由に行き来する歌声も、思うがままに流れる風のようで心地よい。

ジャズの香りがほんのり漂う『太陽さん』や、10分以上の長尺ながらドラマチックな展開で耳を引き付け続ける『機械仕掛乃宇宙』、青葉の音楽表現の礎となった山田庵巳のカバー『旭をつれて』や、喪失の心模様をピアノとともに紡ぐ『海底のエデン』など、演奏が続くたびに新たな世界が生まれゆき、それぞれが魅力的な音を放ち、その世界へと誘ってくれる。

Ichiko Aoba solo concert 2024 at Yamaha Hall

どの曲も鮮烈な個性を放っているが、青葉本人の醸し出す雰囲気は実にやわらかく、ライブの最後のほうで「いまさらですけど、本当自由に聴いてください」なんてMCをするところに、なんともいえない愛嬌が感じられたりした。

本編ラストの『ひかりのふるさと』では、ステージ背景に装飾されている植物を、青葉が演奏しているあいだにスタッフが切り取り、それをライブ後に来場者に持ち帰ってもらうという試みもあり、青葉の自由な世界は、最後まで楽しませ、こころ潤し続けてくれた。植物を受け取った人であれば、家でその緑を眺めながら、この夜の響きを再びこころに芽吹かせることができただろう。

Ichiko Aoba solo concert 2024 at Yamaha Hall

飯島健一〔いいじま・けんいち〕
音楽ライター、編集者。1970年埼玉県生まれ。書店勤務、レコード会社のアルバイトを経て、音楽雑誌『音楽と人』の編集に従事。フリーに転向してからは、Jポップを中心にジャズやクラシック、アニメ音楽のアーティストのインタビューやライヴレポートを執筆。映画や舞台、アートなどの分野の記事執筆も手掛けている。

photo/ Konatsu Yamaguchi、Takako Miyachi(4枚目)

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

facebook

twitter

特集

nokkoさん

今月の音遊人

今月の音遊人:NOKKOさん「私の歌詞の原点は、ユーミンさんと別冊マーガレット」

17494views

クラシック名曲 ポップにシン・発見

音楽ライターの眼

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase1)ベートーヴェン「25のスコットランド民謡Op.108」楽聖が編曲した英語のフォークソング、コールドプレイを予感

1713views

reface

楽器探訪 Anothertake

コンパクトなボディに優れた操作性が溶け込んだデザイン

5932views

ヴェノーヴァ

楽器のあれこれQ&A

気軽に始められる新しい管楽器 Venova™(ヴェノーヴァ)の魅力

2044views

大人の楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

11410views

カッティング・エンジニア

オトノ仕事人

レコードの生命線である音溝を刻む専門家/カッティング・エンジニアの仕事

2311views

HAKUJU HALL(白寿ホール)

ホール自慢を聞きましょう

心身ともにリラックスできる贅沢な音楽空間/Hakuju Hall(ハクジュホール)

22492views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

7433views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

8390views

スイング・ビーズ・ジャズ・オーケストラのメンバー

われら音遊人

われら音遊人:震災の年に結成したビッグバンド、ボランティア演奏もおまかせあれ!

5724views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

すべては、あの日の「無料体験レッスン」から始まった

5310views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

29858views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】注目の若手ピアニスト小林愛実がチェロのレッスンに挑戦!

9628views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

22413views

DIO: Dreamers Never Die

音楽ライターの眼

ヘヴィ・メタル稀代の名シンガー、ロニー・ジェイムズ・ディオの勇姿が蘇る映画『DIO: Dreamers Never Die』海外公開

1310views

オトノ仕事人

コンピュータを駆使して、ステージのサウンドをデザインする/ライブマニピュレーターの仕事

4610views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:仕事もバンドも、常に真剣勝負!

9596views

楽器探訪 - ステージア「ELC-02」

楽器探訪 Anothertake

持ち運び可能なエレクトーン「ELC-02」、自由な発想でカジュアルに遊ぶ

30569views

ザ・シンフォニーホール

ホール自慢を聞きましょう

歴史と伝統、風格を受け継ぐクラシック音楽専用ホール/ザ・シンフォニーホール

23917views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

もしもあのとき、バイオリンを習っていたら

5594views

楽器のあれこれQ&A リコーダー

楽器のあれこれQ&A

リコーダーを長く楽しむためのお手入れ方法

7181views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

6839views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

9944views