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【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#71 早逝の天才が本領を発揮したハード・バップのモデルケース~クリフォード・ブラウン&マックス・ローチ『スタディ・イン・ブラウン』編

クリフォード・ブラウンは本連載ですでに『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』(#030)『サラ・ヴォーン・ウィズ・クリフォード・ブラウン』(#044)『クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス』(#055)と取り上げてきました。

しかし、いずれも“企画先行”といった感が強い内容で、モダンジャズを代表するトランペット奏者であるクリフォード・ブラウンのアルバムとしてはどうなんだと言われると、「それは……」と口ごもるのもやむなしかもしれないと思っていたのが正直なところ。

そこで登場するのが本作で、これこそ“ハード・バップのイメージ”を作り上げた立役者の代表作と呼ばれているものです。

では、クリフォード・ブラウンが作り上げたとされる“ハード・バップのイメージ”とはなんだったのかを、本作を聴き直しながら考察してみましょう。


Cherokee

アルバム概要

1955年にニューヨークのスタジオでレコーディングされた作品です。

オリジナルはLP盤(A面4曲B面5曲の全9曲)でリリースされています。同曲数同曲順でのCD化のほか、カセットテープのヴァージョンがあります。

メンバーは、トランペットがクリフォード・ブラウン、テナー・サックスがハロルド・ランド、ピアノがリッチー・パウエル、ベースがジョージ・モロウ、ドラムスがマックス・ローチで、ハード・バップの編成で一般的な2管クインテットです。

収録曲は、メンバーのオリジナルが6曲(クリフォード・ブラウンが4曲、ハロルド・ランドが1曲、リッチー・パウエルが1曲)、カヴァーが3曲という構成です。

“名盤”の理由

クリフォード・ブラウンは1930年生まれ。10代前半からトランペットを手にしたそうですから、スウィングやブルースのほか、最新のジャズであるビバップにも興味をもっていたと想像します。

大学進学に際して当初は数学を専攻したものの、まもなく音楽科専攻に変更。学生バンドで活動中にディジー・ガレスピーと出逢って、プロになるよう勧められたというエピソードは1950年のこと。

チャーリー・パーカーとの共演をきっかけに当時のジャズ最前線のミュージシャンたちとの交流が盛んになり、その流れから、大きなエポックである1954年の『バードランドの夜』セッションへの参加へと展開していきます。

『バードランドの夜』セッションとは、米ニューヨークのライヴハウス“バードランド”で行なわれたアート・ブレイキー名義の2日間公演のことで、そのもようはアルバム収録され、これをもってジャズ史では“ハード・バップの誕生”とするほど、シーンの反響が大きいライヴでした。

アート・ブレイキーはこの『バードランドの夜』セッションのメンバーでレギュラー活動をスタートさせ、これがその後(メンバー交代を繰り返しながら)35年続く“ジャズ・メッセンジャーズ”の第一歩となりました。

こうした歴史的経緯からも、クリフォード・ブラウンはハード・バップのオリジネーターであるとシーンから認識されてしかるべきでしたが、その人気にあやかろうと、冒頭で触れたように“企画先行”のようなアルバムのオファーが押し寄せていたのです。

そんな状況にモヤモヤしていたコアなジャズ・ファンにとって、クリフォード・ブラウンの本領発揮となったイメージどおりの(いや、それを凌駕してくれる)内容が、本作だったというわけです。

いま聴くべきポイント

アルバム冒頭の『チェロキー』は、イギリスの作曲家レイ・ノーブルが作曲した5楽章の『インディアン組曲』(出版は1938年)のうちの最初の楽章の曲です。

1939年にアメリカのサックス奏者でバンド・リーダーのチャーリー・バーネットが自身の楽団で取り上げ、ポップチャートで15位となるヒットを記録しています。

多くのビッグバンドのレパートリーとなる一方、1940年代にはチャーリー・パーカーが(ディジー・ガレスピーとのクインテットなど)小編成でのレコーディングをしたことで、ビバップを象徴する曲でもあったのです。

この曲を取り上げていることは、クリフォード・ブラウンがビバップの正統な後継者であり、そこから次代を担うべく新たなアンサンブルに挑戦する意欲があるということを、ジャズ・シーンに示す“意図”があったと考えられるのではないでしょうか。

こうした“意図”を敏感に察知して、その才能に拍手を送るファンが多かったからこそ、本作は“名盤”の座を得ることになったのだと思います。

シーンの期待を集めたクリフォード・ブラウンでしたが、本当に残念なことに本作収録&発売の翌年、自動車事故に遭い、25歳の若さで逝去しました。

シーンの期待の高さと失望の大きさもまた、本作を“名盤”たらしめる大きな要素になっているのかもしれません。

「ジャズの“名盤”ってナンだ?」全編 >

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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