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今月の音遊人:木嶋真優さん「私は“人”よりも“音楽”を信用しているかもしれません」
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[ジャズの“名盤”ってナンだ?]#055 ハード・バップっぽさを消すことで得たジャズのポピュラリティ~クリフォード・ブラウン『クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス』編
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2025.2.18
tagged: 音楽ライターの眼, ジャズの“名盤”ってナンだ?, クリフォード・ブラウン
“天才”と呼ばれ、多様化し始めた1950年代のジャズというジャンルにおいて“メインストリーム=本流”であるビバップ由来のハード・バップの先陣を切るであろうと期待されていたジャズ・トランペッターが、25歳で夭折する1年半前に制作した作品。
本作の前にヴォーカル・アルバム(#030『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』1954年)へ参加していることからもわかるように、ゴリゴリの硬派なプレイを得意とするだけでなく、情緒溢れるバラード・プレイにも長けていたわけですが、その“強み”をより広くポピュラー音楽ファンにアピールするために企画されたのが本作といえるでしょう。
いま聴くべき本作におけるクリフォード・ブラウンの“強み”とはなにか、リリースされた1950年代半ばのシーンは彼になにを求めていたのかを、改めて考えてみましょう。
1955年にスタジオでレコーディングされた作品です。
メンバーは、トランペットがクリフォード・ブラウン、ピアノがリッチー・パウエル、ギターがバリー・ガルブレイス、ベースがジョージ・モロウ、ドラムスがマックス・ローチのほか、ヴァイオリン6挺、ヴィオラ2挺、チェロ1挺のストリングス・オーケストラと、その指揮と編曲を担当したニール・ヘフディがクレジットされています。
収録曲はジャズ・スタンダード・ナンバーばかりが並び、ゆったりとしたテンポで演奏されたバラード・アルバムとなっています。
オリジナルはLP盤で、A面6曲B面6曲の合計12曲を収録。同曲数同曲順でCD化されています。
本作の“聴きやすさ”は、(発表当時の)リスナーにとって耳なじみのあるスタンダード・ナンバーを選んだということにとどまらず、あえて“ハード・バップっぽさ”を薄めるようなストリングス・オーケストラを配したアレンジが功を奏した──というのが、いまに至る“定番”の評価ではないかと思います。
とはいえ、ストリングス・オーケストラを起用するとなれば時間も場所も4~5人のバンドでのレコーディングとはスケールが異なり、必然的に費用が桁違いとなります。つまり、ヒットを狙いに行く戦略がなければ気軽には立てられないような企画であるはずなのです。
そこで“ヒットを狙いに行く戦略”という観点から本作を捉え直してみると、前記の“耳なじみのあるスタンダードを選曲”と“ハード・バップっぽさを薄めたストリングス・オーケストラを起用したアレンジ”に加え、そもそも主役であるクリフォード・ブラウンの“ジャズ・トランペッター”としての立ち位置を(それほどジャズ・ファンではない層にも)周知させる要素が必要だと考えたのではないか……。
そういう視点で彼のプレイを聴き直すと、ジャズ史にハード・バップという新たな流れを生み出したとされるアート・ブレイキー・クインテットでの演奏(ex. 『バードランドの夜』1954年)やマックス・ローチとの双頭クインテットでの演奏(ex. 『アット・ベイズン・ストリート』1956年)とは趣が違っていることに気づくはずです。
そう、それはまるでビバップ以前のジャズのような、温かみのあるサウンド──つまり、ジャズの“ファミリー・トゥリー(系図)”の根っこをしっかり持っている演奏者だとアピールすることが戦略としての目的であり、それがズバリ、的中したということだったのではないかと思うのです。
その“温かみ”の違いを、聴き比べてみてください。
富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
富澤えいちのジャズブログ/富澤えいちのジャズ・ブログ道場Facebook
文/ 富澤えいち
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