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今月の音遊人:清水ミチコさん「ピアノをちょっと絶ってみると、どれだけ自分に必要かわかります」
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【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#044 モダンジャズにおける“歌”というパートの意義を刻んだ名唱&名演~サラ・ヴォーン・ウィズ・クリフォード・ブラウン『サラ・ヴォーン・ウィズ・クリフォード・ブラウン』編
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2024.9.5
tagged: 音楽ライターの眼, ジャズの“名盤”ってナンだ?, サラ・ヴォーン, サラ・ヴォーン・ウィズ・クリフォード・ブラウン
#024に続いて登場の、サラ・ヴォーンの作品。
こちらは彼女の絶頂期に向かう1950年代半ば、#024『枯葉』の28年前にレコーディングされたものですが、比較するのであれば#030『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』であるべきなんじゃないかと思うのです。
というのも、上り調子のサラ・ヴォーンもさることながら、その1年半後に交通事故により25歳で亡くなったクリフォード・ブラウンの貴重な記録という意味の大きさが、ジャズ・シーンでは評価されていた影響が強いんじゃないか……。
なんて言うと、ヴォーカル・マニア方面から石が飛んできそうなので、しっかりと現在ならではの評価を考えてみたいと思います。
1954年の年末にニューヨークのスタジオでレコーディングされた作品です。
メンバーは、ヴォーカルがサラ・ヴォーン、トランペットがクリフォード・ブラウン、テナー・サックスがポール・クイニシェット、フルートがハービー・マン、ピアノがジミー・ジョーンズ、ベースがジョー・ベンジャミン、ドラムスがロイ・ヘインズ、アレンジと指揮でアーニー・ウィルキンスがクレジットされています。
オリジナルはLP盤で、A面4曲B面5曲の合計9曲を収録。CD化では同曲数同曲順のほか、『バードランドの子守唄』の別テイクを追加した“+1”ヴァージョンがあります。
収録曲は、すべてジャズ・スタンダードとして知られる曲のカヴァーとなっています。
先述のように、夭折した天才トランペッターの貴重な参加作品であることが、“名盤”入りへの大きなひと押しになっていることは否めないと思います。
では、本作におけるサラ・ヴォーンの評価の核心はどこにあったかというと、“モダンジャズに順応できたシンガーであったこと”だったと思うのです。
1950年代、ジャズはビバップを基調として発展した“モダンジャズ”と呼ばれるスタイルを磨き上げ、世紀を象徴する芸術として広く認められるようになっていました。
しかし、その主な牽引力が器楽演奏に拠っていたため、必ずしも歌唱は“モダンジャズ”のムーヴメントには必須なわけではないという見方が多かったのですが、そんな先入観を覆したのが、バリトン・ヴォイスでファンを魅了したビリー・エクスタイン。
1940年代半ばに彼がリーダーとなって結成したビッグバンドは、ビバップのオリジネーターたちの修練場として機能し、彼自身もまたポピュラー音楽とビバップのニュアンスの違いを吸収して自分の表現にしていったようです。
ちょうどそのころにプロとして活動を始めたサラ・ヴォーンが最も影響を受けたシンガーとして知られるのが、このビリー・エクスタインだというわけです。
ビバップからハード・バップへと先鋭化していくジャズ的な音楽のなかで、器楽奏者に伍して音楽を創ることのできる素養がサラ・ヴォーンには備わっていたため、器楽奏者たちと対等に“よりジャズ的なセッション”を行なえると目論んでレコーディングが企画された、と。
つまり本作は、サラ・ヴォーンという“ジャズ・シンガー”がいたからこそ誕生するべくして誕生した“名盤”だった、ということになるわけですね。
収録曲『バードランドの子守唄』が歴史的な名テイクとして知られすぎているので仕方ないのですが、本作でクリフォード・ブラウンの功績に言及しすぎるのも「なんだかなぁ……」というのが、ボクの正直な現在の感想です。
前述のアルバム『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』は本作とほぼ同時期(1954年12月)に制作されていますが、こちらのほうがクリフォード・ブラウンのプレイが際立っていると思うからです。
アーニー・ウィルキンスが手がけた本作のアレンジは洗練さを感じさせる仕上がりで、参加メンバーのバランスを考えたソロの配置といい、『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』でのクインシー・ジョーンズの大いに外連味を感じるアレンジとは対照的です。
ニューフェースのヘレン・メリルを売り出すための企画と、モダンジャズを代表するシンガーとしての地位を固めつつあったサラ・ヴォーンのための企画という“違い”があったことは想像に難くないのですが、そのおかげで演奏メンバーそれぞれと互角に渡り合う“モダンジャズ・シンガー”サラ・ヴォーンの姿を堪能できる作品が生まれたことに、本作の“名盤”である意義があるのだと思います。
富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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文/ 富澤えいち
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